2024.02.17
インプラントを腐食させるからフッ素入りの歯磨き粉は良くないって本当?
インプラントがフッ素によって腐食するという話を聞いたことはないでしょうか?
しかし、市販の歯磨き粉をはじめとするオーラルケア商品の多くにフッ素が使用されており、インプラント治療後にどのように口腔ケアをすればいいか、わからなくなってしまうかもしれません。
そこで今回はインプラントにフッ素入りオーラルケア商品を使う場合の影響について解説します。インプラント治療後の適切な口腔ケアの方法についてもご紹介しますので、ぜひ最後までチェックしてみてください。
インプラントにフッ素入り歯磨き粉は良くないのか?
結論からいうと、インプラント治療後にフッ素が使われている歯磨き粉で歯を磨いたり、フッ素入りの洗口液を使用するのも、問題ありません。問題ないどころか、日本口腔衛生学会はフッ素入り歯磨き粉の使用をすすめているのです。その理由は、フッ素には虫歯予防効果があるからです。
それでは、フッ素はインプラントを腐食してしまうから使ってはダメ、という話はどうして生まれたのでしょうか。その原因を以下で解説します。
インプラントにフッ素入り歯磨き粉が良くないといわれ始めた理由
このようにいわれるようになったのは、フッ素研究会という団体の発表に理由があります。
その内容とは、9,000ppmの高濃度フッ素を含有するフッ素塗布剤を使用した場合、
- チタンが著しく腐食する
- 口腔環境内ではチタンの腐食が進みやすい
というものでした。
この発表によりインプラントにとってフッ素が良くない、という話が広まりました。
ただし、あくまでこの発表は実験室での研究に基づくもの。実際に人間の口腔内での疫学調査を経た結果ではないことに注意が必要です。
フッ素入り歯磨き粉がインプラントに影響することは考えにくい
上記の発表内容は、研究としては正しいものの、実際の口腔内では起こりにくいものと考えられます。
そもそも、国内で市販される歯磨き粉に含まれるフッ素の上限は1,500ppmに定められています。加えて、唾液による希釈や緩衝作用によって口腔内ではフッ素濃度はかなり低くなるのです。
そのため、日本国内で販売されているフッ素が使われている歯磨き粉で歯を磨いても、インプラントに影響を及ぼすとは考えにくいといえます。
日本口腔衛生学会はフッ素入り歯磨き粉の使用を推奨
平成27年、日本口腔学会は「フッ素物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである」という見解を発表しました。
内容を要約すると以下のようになります。
- 唾液による緩衝作用を考えると、フッ素が含まれる歯磨き粉によってインプラントの腐食リスク、インプラント周囲炎発生のリスクは極めて低い
- インプラントの腐食リスクよりも、その他の歯の虫歯の予防効果が大きい
なお、フッ化物濃度によってチタンが腐食した例が報告されているものの、ph4未満という条件下のものであり、市販の歯磨き粉に含まれるフッ素がph7前後でほぼ中性であることを考えれば、やはりインプラントを腐食させるまでは至らないと考えるのが自然といえます。
インプラント後の口腔ケアにはフッ素が効果的な理由
フッ素は、インプラント治療をした後の口腔ケアに効果的です。どのような効果が期待できるのか見ていきましょう。
インプラント周囲炎の予防
インプラント周囲炎とは、インプラントの周辺に歯茎の腫れや出血など、歯周病のような症状がでるものです。人工の歯とインプラントの間のプラーク(歯垢)が原因で発生します。
フッ素にはプラーク内の細菌の働きを抑制する効果があるため、フッ素を使った口腔ケアはインプラント周囲炎の防止に役立つ可能性が高いといえます。
歯の修復を促進する
歯の表面では、常に「脱灰(だっかい)」と「再石灰化」が繰り返されています。
「脱灰」とは、食事をすることで虫歯菌が酸を作り出し、歯の表面からカルシウムやリン酸などの成分が溶けだしてしまうこと。虫歯菌による酸により酸性に傾いた口腔内は、唾液の緩衝作用によって中性に戻ろうとし、その際に唾液に含まれるカルシウムやリンが歯の表面のエナメル質に戻る「再石灰化」が発生します。
脱灰と再石灰化のバランスが保たれることによって、虫歯の発生を抑制する仕組みとなっているのです。
フッ素が歯の近くにあると、カルシウムやリン酸を引き寄せて再石灰化を促してくれるのです。初期の虫歯であれば、再石灰化の働きで修復される場合もあります。
歯のエナメル質の強化
歯の表面を覆っているエナメル質には、口の中に存在する菌から歯を守る役割があります。エナメル質は主に「ハイドロキシアパタイト」と呼ばれるリン酸カルシウムからできています。この成分は酸に弱いため、虫歯菌が作り出した酸で溶けてしまう弱点があります。エナメル質を溶けたまま放置していると、最終的に虫歯となってしまいます。
このように酸に弱いハイドロキシアパタイトですが、歯磨き粉内のフッ素と結びつくことで、酸に強く脱灰しにくい「フルオロアパタイト」に変化します。フッ素が歯質を強化し、虫歯菌が作り出す酸に負けない強い歯となるのです。
虫歯菌の働きを弱める
フッ素には虫歯菌の酸を作り出す働きを弱める効果もあります。
虫歯菌が酸を作り出す時には、「エノラーゼ」などの酵素が必要です。フッ素にはこれらの酵素の活動を阻害する力があるため、フッ素入り歯磨き粉を使うことで、虫歯菌の酸を作り出す働きを弱める効果が期待できます。
酸を作る量が減ると、歯を溶かすことができず、その結果、虫歯ができにくくなります。
インプラント後のケアに使う歯磨き粉の選び方
インプラント治療後は歯磨きによるケアが重要です。ここでは、ケアに使用する歯磨き粉の選び方を紹介します。
フッ素が使われた歯磨き粉でも大丈夫
インプラント治療を行った後でも、フッ素が使われた歯磨き粉を選んで問題ありません。前述のとおり、市販の歯磨き粉のフッ素濃度は1,500ppm未満であり、インプラントを腐食させるリスクが低いためです。
また、天然歯が虫歯になるのを防ぐ効果も大きいため、使用を前向きに検討しましょう。
研磨剤が使われている歯磨き粉は避ける
研磨剤が使われている歯磨き粉は、使用を避けましょう。最近ではホワイトニング用として、研磨剤が入った歯磨き粉が販売されています。歯の黄ばみの原因となるステインや汚れを削り落とすことで、歯を白く保つ効果がありますが、削れた部分の汚れが付きやすくなるデメリットがあります。
また、インプラントの表面を削ったり、インプラント周りの歯茎における炎症の原因になったりすることがあります。炭酸カルシウムやケイ素の表記があるものが研磨剤入りとなるため、購入前に確認してください。
顆粒入りタイプの歯磨き粉は避ける
顆粒入りタイプの歯磨き粉も使わないようにしましょう。研磨剤が含まれるものが多いためです。
インプラントも残った天然歯も傷つけてしまう恐れがあるため、十分注意してください。
心配な場合は歯科医院で歯磨き粉を購入する
どの歯磨き粉を使えばいいかわからない場合は、歯科医院に相談することをおすすめします。
歯科医院では、口腔ケアに効果的な歯磨き粉を販売しています。歯科医師がすすめる歯磨き粉なら、安心して使えるでしょう。
フッ素入り洗口液はインプラントに使用しても良い?
虫歯予防のために、フッ素入りの歯磨き粉のほかに、フッ素が入った洗口液を使用される方も増えてきました。インプラント治療後でも、一般的なフッ素濃度(200〜900ppm)の洗口液であれば、使用は可能です。
特に就寝中は唾液の分泌が少なくなり、虫歯菌の活動が活発となるため、寝る前の歯磨きに使用するのがおすすめです。ただ、フッ素入り洗口液はあくまで補助的に使うもの。歯磨きを丁寧に行うことが口腔内の状態を清潔に保つ第一の手段です。
インプラント治療後のお手入れで迷ったら、安岡デンタルオフィスへ
歯磨き粉をはじめとするフッ素入りの一般的なオーラルケア商品は、インプラント治療を受けた歯がある場合にも、問題なくに使用できます。
一般的なオーラルケア商品の場合、そもそもフッ素濃度が低く、さらに口腔内では希釈されるため、インプラント内部の部品を腐食してしまうほどの力を持たないからです。また、フッ素には天然歯の虫歯を防ぐ効果もあるため、むしろ積極的な活用を当院ではおすすめしています。
ただ、いくらフッ素入りのオーラルケア商品を使っていても、適切に歯磨きができていなければ、数々の問題を引き起こしてしまいます。当院では定期的なメンテナンスの際に、歯磨き指導なども行っています。
口腔内のお手入れをきちんとできているか自信のない方は、ぜひご相談ください。