2024.04.19
前歯のインプラント治療に対する私達のこだわりについて
今回は、前歯のインプラント治療に対する私たちの「こだわり」についてお伝えします。つまり、前歯を美しく治療する際にどのような点に注目しているのか、そしてその理由について解説します。前歯はお口を開けたときに一番見える歯、見えやすい歯でもありますね。前歯に何かしらの問題を抱えている方、違和感を抱いている方、治療には様々な方法があり、気になっている方に役立つ情報となっております。ぜひ参考にしてみてください。
「前歯のインプラント」は簡単に元通りに戻らない
前歯がダメになったら抜いて、インプラントを入れたら簡単に元通りになると考えていませんか。前歯のインプラント治療は一般に考えられるほど簡単ではなく、自然な見た目を実現するには高度な技術が必要です。なぜなら、歯を抜くと骨や歯茎が徐々に下がってしまうため、単にインプラントを挿入するだけでは元の状態に戻りません。元通りにするには、歯茎や骨の移植など、さまざまな治療法が必要です。
前歯インプラントにおける歯茎移植の必要性とは?
なぜ前歯のインプラントに歯茎の移植が必要なのかについて、長崎大学の澤瀬隆教授による2013年の研究論文『未来型人工関節を目指して』によると、「インプラント周囲の軟組織は天然歯よりも厚い歯肉がないと歯冠側に高い位置に軟組織を安定させることが困難である」と定義しています。つまり、インプラントの周囲にある柔らかい組織は、天然歯よりも厚い歯茎がないと、歯茎の高さが得られないのです。したがって、インプラントを天然歯のようにするには、歯茎を使用して高さをつくる必要があるといえます。
さらに、歯茎の高さと幅の比率についても、『天然歯 H:W = 1.5:1』、『インプラント H:W = 1:1.5』と定義しています。つまり、単純にインプラントを前歯に挿入しただけでは、歯茎が下がってしまうのです。このような論文を根拠に、歯茎の厚みや高さをつくるため、前歯のインプラントには歯茎の移植が必要だと当院では考えています。
前歯のインプラントに対する当院のこだわりとは?
先ほど紹介した論文を根拠に、前歯のインプラント治療では、以下の3つに注力しています。
- どの歯が治療されたのかわからないほど自然な仕上がり
歯の写真を見たときに、どの歯がインプラントをしたのかわからないくらい、仕上がりが自然です。そこまでやらなくても、患者様から見て十分キレイだと思うかもしれませんが、当院では自然な歯茎の仕上がりにこだわっています。
- 歯茎を左右対称に保つ
インプラント治療は、治療直後だけでなく、1年後、数年後と長期的にみても前歯の歯茎が下がらず、歯茎の形が左右対称になるようにインプラントを入れます。
- 歯茎の移植を行う
これらを実現するために、前歯のインプラント治療では、歯茎の移植手術を行っています。
治療前の患者様の状態について
先ほど挙げたこだわりに焦点を当て、前歯のインプラント治療の症例をご紹介します。今回の患者様の主訴は、2016年の交通事故による「左上の前歯に違和感がある」というものでした。まず、口の状態を診断するためにレントゲンやCTを撮影しました。その結果、以下のことが判明しました。
- 歯の根先が折れている
- 頬側の骨は残っている
レントゲンからは歯の根先が折れていることがわかりました。さらに、CT画像からは、幸いなことに頬側の骨はすべて残っていることを確認しました。では、どのような治療を行ったのか具体的に見てみましょう。
歯茎や骨の移植をして前歯のインプラント治療を実施
何の違和感もなく、キレイで自信のある笑顔を出せることを目標に、今回の治療では、歯茎や骨を移植して前歯のインプラント治療を進めました。
- 前歯を抜いた後、歯茎を移植
前歯を抜いた後、抜いた部分に歯茎を移植します。今回の治療で重要なポイントは、“歯茎の移植”になります。移植で使用する部位は、最も硬くて強い性質を持つ部分が必要なので、患者様の上の歯(7番目)の裏側にある上顎結節(じょうがくけっせつ)から取りました。
- 移植した歯茎の安定化
移植後は、きれいな針で丁寧に縫合します。切り取った歯茎を欠損した前歯に取り付け、接続されて安定するのを待ちます。
- インプラントと骨の移植
歯茎の移植が完了したら、次は通常どおりインプラントと骨の移植をします。見た目を自然に仕上げるには、歯茎の高さを隣の歯と同じに調整する必要があります。そのためには、先ほど紹介した研究論文でも示されたように、インプラントを入れる際に数ミリほど骨の厚みを確保することが重要で、そうすることで歯茎は下がらないとしています。これらを考慮して、今回は歯茎から4ミリ深いところにインプラントを挿入しました。インプラントと骨を移植したところに、採取した歯茎を押し込んで土台をつくります。
- シュミレーションガイドで正確な位置と角度の確保
事前にシミュレーションガイドを使用して、インプラントを入れるべき正確な位置や角度を把握します。ガイドを使用することで、予定通りピッタリ入れることが可能です。実は、骨の厚みの幅をたった2ミリ〜4ミリほどあらかじめ確保すること(つまり、歯茎を移植すること)が、前歯のインプラント治療では重要なポイントです。歯茎が下がらないようにするため、このプロセスを丁寧に行います。
歯茎が下がるとどのような問題が生じるのか?
歯茎の移植を行わずに前歯のインプラント治療を行うと、次のような結果が生じる可能性があります。
- 歯の見た目が長くなる
- 天然歯のようには見えない
前歯のインプラントは歯茎が下がりやすいと言われています。というのも、前歯を支える骨は薄いため、インプラント治療中に骨吸収が起こりやすく、歯茎が下がる場合があるためです。歯茎が下がっているかどうかは、インプラント治療後に歯と歯の間の三角形の形(歯茎)を見るとわかります。たとえば、前歯のインプラント治療をしたけれど、笑ったときに歯茎の三角形の部分が隙間で黒く見えていたらどうでしょうか。人前で笑うときに隙間が気になってしまって、つい手で笑顔を隠してしまうこともあるかもしれません。だからこそ、当院で前歯のインプラントをする場合、笑ったときに天然歯と同じように歯茎がきちんと温存できている状況、歯茎の仕上がりに強くこだわります。
まとめ
前歯のインプラントを考えるときは、治療費や時間などを考慮して、決断に時間がかかることがあります。じっくり検討しないと、「もっとよく考えればよかった」「こうすれば良かったのに」と後悔することもあります。また、「もっと良い歯医者がある」「他にもいろいろな治療法がある」と感じることもあるかもしれません。しかし、何の違和感もなく人前で笑顔を見せられる状況を作ることができれば、治療を受けて本当に良かったと感じるでしょう。前歯のインプラントを考える際は、将来においても非常に重要で大切な決断だと考えます。